時間の牧場(2138)
2138年、スイスの絶景を楽しめる従来の観光列車に乗ってピラトゥス山へと向かう。窓からは美しい景色が続々と見える。時には、線路のそばでのんびりと草を食べる牛も見かけ、牛の鈴の音が耳元で聞こえる。
山の景色は魂を奪い、言葉と写真だけでは表現し切れないほど衝撃的だった。しかし、サトシには景色を楽しむ心がなく、論文で示した全てが現実のどのような形で現れるのか不安に思いながら待っていた。
歯車付き列車は止まった。サラはサトシを三輪の山地越野車に乗せて、「立入り禁止」の標識の立っている小道に沿って約30分走らせた。白い城の前についた。城は大きくなく、最近修繕されたようだった。
余計な言葉を言わず、城のスタッフに案内されて、二人は城の中に入り、側面のエレベーターに乗った。エレベーターは地下に3分程下り、サトシが外を見ると、目の前の壮大な景色に釘付けになった。ここは巨大な山そのものを掘りくぐった白い巣のような場所で、壁は2~3メートル四方の六角形のカプセル空間でできており、見上げると見えなくなる高さまで伸びていた。
サラは口あんぐりのサトシをからかう女性の中音で「時間の牧場へようこそ」と言った。
遠くの巨大な蜂の巣のカプセルの中の白い人形を眺めながら、サトシはつぶやいた。「時間の牧場...放牧されているのは人類の未来なのだ」
サトシは自分の論文の潜在的な力をよく理解していた。時間を支配する者が、第四次元の力、神のような能力を手に入れる。絶対的な優位に立つ。
しばらくの沈黙の後、サラは説明を続けた。「牧場は現在最大で4000人が同時に協働できる。放牧期間は最大45日間...。上で現在運用されているプロジェクトは『AIによる仮想平行宇宙社会の道義的進化の道筋』だ」
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